医療福祉ニュース
- 10年以上の歴史ある医療法人に朗報! 新認定医療法人の要件判明!
持分あり医療法人に潜む「大きなリスク」とは?
現状、平成19年3月31日以前に設立された「持分あり医療法人」は、理事長がお亡くなりになると、その出資持分に対して何億円もの相続税課税が起こったりします。
また、社員(=出資者)の中に医療法人の経営に関係しない親族がいる場合、その親族が医療法人の社員を退社する時には、医療法人はその親族に対して、何億円・何十億円もの出資持分を払い戻さなくてはなりません。
一方、平成19年4月1日以降に設立された「持分なし医療法人」であれば、設立時に支出した基金(※1)のみが相続財産となり(※2)、相続税の負担は少なくて済みますし、経営に関係しない親族への払い戻しも、その親族が元々出資した金額(大体ゼロ円)だけで済みます。
※1.大体1,000万円前後
※2.基金拠出型の場合、基金拠出型でない場合にはそもそも相続税はゼロ円
平成26年の税制改正でどうなったか?
そこで国は、平成26年の税制改正で「認定医療法人」という枠組みと、「医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置制度」を設け、「持分あり医療法人」から「持分なし医療法人」への移行を促進しようとしました。
ところが、この「認定医療法人」という制度、まったく使えないものでした(笑)
というのも、この制度によって「持分のない医療法人」へ移行した場合、理事長の相続に係る相続税や、出資者間のみなし贈与税は猶予・免除されるのですが、原則として医療法人に多額の贈与税が課されてしまうのです。
この医療法人に係る贈与税を回避する方法もあるにはあるのですが、その要件は
① 理事6人以上、監事2人以上にすること
(注:ほとんどの医療法人は理事3人+監事1人)
② 役員のうち親族は三分の一以下にすること
(注:ほとんどの医療法人の役員は親族で固めている)
③ 法人関係者に利益供与しないこと等
(注:…ここはノーコメントで!)
つまり「大企業のような非同族経営に移行すれば贈与税は掛けないよ」というものだったからです。
案の定、平成26年10月の施行後、平成28年9月までの2年間の移行完了件数は、わずか13件に留まっています。(平成29年1月の第50回社会保障審議会医療部会より)
福岡県内で13件ではありません、全国でたった13件です…(泣)。
今回の改正は?
この(使えない)認定医療法人の枠組みが今年の9月で切れること、また「持分なし医療法人」への移行が全然進まなかったことを考慮して、もっと使いやすい新たな枠組みを設ける必要性があるよねって検討されてきたわけです。
それが新認定医療法人です。
ただ、その認定要件については、大枠では定まっていたものの、細かい部分までは明らかになっていませんでした。
その細かい部分について、厚生労働省が8月17日にパブリックコメントの手続きを開始し、その内容がほぼ固まってきました!
まず、以前から大枠で定まっていた要件は
[1]認定時要件
① 社員総会の議決があること
② 移行計画が有効かつ適正であること
③ 移行計画期間が3年以内であること
④ 移行後、6年間は認定要件を維持しなければならないこと
[2]運営の適正要件
① 法人関係者に利益供与しないこと
② 役員報酬が不当に高額にならないよう定めていること
③ 社会保険診療収入が収入全体の80%以上であること
でした。
このうち、[2]運営要件について、8月17日に発表されたパブコメでは次のように規定しています。(一部抜粋)
一 医療法人の運営について、次のいずれにも該当すること。
イ その事業を行うに当たり、社員、理事、監事、使用人その他の医療法人の関係者に対し特別の利益を与えないものであること。
ロ その理事及び監事に対する報酬等について、民間事業者の役員報酬等及び従業員の給与、医療法人の経理の状況等を考慮して、不当に高額なものとならないような支給の基準を定めているものであること。
ハ その事業を行うに当たり、特定の者に対し、寄附等特別の利益を与える行為を行わないものであること。ただし公益法人等に対する行為を除く。
ニ 毎会計年度末日における遊休財産額は、直近の損益計算書に計上する事業費用の額を超えてはならないこと。
ホ 法令に違反する事実、取引の全部若しくは一部を隠蔽し、又は仮装して記録若しくは記載をしている事実その他公益に反する事実がないこと。
二 医療法人の事業について、次のいずれにも該当すること。
イ 社会保険診療に係る収入等の合計金額が、全収入金額の80%を超えること。
ロ 自費請求金額が、社会保険診療報酬と同一の基準により計算されること。
ハ 医療診療の収入金額が、医師・看護師等の給与、医療の提供に要する費用(投薬費を含む。)等患者のために直接必要な経費の額の150%の範囲内であること。
「特別の利益って何?」っていう疑問は残りますが、役員報酬規程を作ったり定款に寄附の制限規定を設けたりすれば大丈夫ではないでしょうか。
で、どうすればいいの?
いまだ、出資持分に大きなリスクを抱えながらも、それに気づいていない、検討できていないという「持分あり医療法人」は多いと思います。
今回の改正により、役員数や役員の親族要件が無くなり、贈与税の非課税対象が大幅に拡大したことには間違いないと思います。
まずは、理事長等の出資者がお亡くなりになった場合の、相続税が幾らになるのかのシミュレーションを行い、新認定医療法人の適用を検討することが大事ではないでしょうか?